ポク太郎です。
童話作家を目指しています。創作した物語を投稿します。
イポック童話『オオカミ少年』

昔々ある所に狼少年というみなしごがいました。狼少年が住んでいる村では放牧をして暮らしていました。
ある日、山に一番近いふもとに住むトーマスさんが言いました。
「おーい、羊番してくれる子供居ねが~?」
「僕やる~。」「あたしがやる~。」子供たちはみんな手を挙げました。
「おー、手伝ってくれるか、ええ子達だな。んだども一人でええんだ。」
スコットやキャサリン、エリックも立候補していますが、トーマスさんはみなしごの狼少年を気にかけて言いました。
「おめーさんどうだ?」
狼少年は優遇された喜びを隠すために下を向いて答えました。
「うん…。」
こうして狼少年は羊番をすることになりました。
トーマスさんの山小屋に着きました。
狼少年は羊の世話の仕方を教えてもらいました。トーマスさんはすぐに覚える狼少年を褒めました。
「凄えなおめー。これなら安心して任せられるべ。」
また、トーマスさんはこう続けました。
「それと大事なこと覚えとけ。」
「狼が来たらでっけー声で叫ぶんだぞ?大人でも準備してないと食われっからな?危ねーんだぞ。」
「ここが山に一番近-んだ。すぐに知らせねーと村中やられちまうかんな?忘れんなよ?」
重要任務を授かりました。狼少年は、羊番が村人たちの命を預かる責任重大な仕事なんだと気付きました。
でも、いきなりぶっつけ本番で成功するでしょうか。狼少年はだんだん心配になってきました。
不安で仕方がない狼少年はあることを思い出しました。
スコットのお家で遊んでたときのことです。スコットのお父さんが、泥棒が来たらこうするんだぞと教えてくれました。
そのとき、スコットのお父さんが泥棒役をして何回も練習をしました。練習をしたらみんなできるようになりました。
狼少年は気付いて早速練習を始めます。
「狼が来たぞ~!!」
「何だ何だ何だ?」
遠くの方で村人たちが慌しく動いています。どうやら練習は成功したようです。
安心した狼少年のところへトーマスさんが飛んで来ました。
「おい、狼居ねーじゃねーか、どうしたんだ急に?」
狼少年は心配で練習したことを話しました。
「何やってんだおめー、大声上げるだけなんだからそんな練習要らねーべ?」
そうこうしてるうちに村の中に居た人が集まってきました。
「すまねぇよ~。俺が心配させちゃったもんだから練習したっつーんだよー。狼いねえから安心してくれ。ホントすまねぇよ~。」
村人たちは何だそういうことかと帰っていきました。でも、いじわるなスーザンだけはまだ怒っています。
スーザンは狼少年を睨んで言いました。
「みなしごなんか禄なことしないわよ!何でこんな子に羊番させてるのよ!」
これはカチンと来ました。
スーザンはババアの癖に紫外線を気にしいつも日傘を持ち歩く勘違いババアです。
スーザンは狼少年だけでなく、親切にしてくれるトーマスさんまで悪者にしました。
狼少年は憎っくきスーザンにいじわるをしてやろうと次の日まで考えました。
狼少年が今できることは「狼が来た」と嘘をつくことだけです。でも大声で叫ぶと村中に聴こえてしまいます。
そこでスーザンにだけ聴こえるようにこれを準備しました。
次の日、狼少年は遠くに見えるスーザンに向かいメガホンを使って叫びました。
「狼が来たぞ~!!」
「何だ何だ何だ?」
何か様子がおかしいです。スーザンにだけ向けたのに村人たちみんなが慌しく動いています。
トーマスさんがまた飛んで来ました。
「おぃ、何やってんだ。また居ねーじゃねーか。」
狼少年は、聴こえるはずのないトーマスさんが走ってきたのを見て気付きました。
これでは距離が離れるほど広い範囲に聴こえてしまいます。狼少年は盲点に気付き慌てました。
また村人たちが集まってきました。怖いアンクルトムも居ます。当のスーザンは来ていません。遠くの方で知らん顔をしています。
「すまねぇよ~。ちゃんと言い聞かすからよぉ~。ホントすまねぇよ~。」
アンクルトムは低い声で「いい加減にしろよ。」とトーマスさんに言いました。トーマスさんは申し訳なさそうにうつむいていました。
スーザンのことで頭がいっぱいになっていた狼少年でしたが、アンクルトムの怖い顔を思い出し、落ち込んでしまいました。
一つのことに捉われ他のことを忘れるのは狼少年の悪い癖でした。
その夜、狼少年はトーマスさんと向かい合って話をしました。
「そらさぁ~、俺だってスーザン嫌いだよ?でもみんな嫌ってんだからよぉ、お前が仕返ししなくったって誰かがやるんだよ。」
「その内罰食らうからさ~、そん時に笑っときゃいいんだよ。」
狼少年はトーマスさんに迷惑を掛けたことを深く反省しました。
「まぁとにかくさ、全部忘れろ。疲れただろーからもうしねーってだけ覚えて寝ろ。」
その晩、狼少年は眠れず、ベッドの中で考えていました。
「使命があるんだ。」と自分の任務に集中します。切り替えが速いのは狼少年の良いところです。
集中すると見えてなかったものが見えてきます。狼少年はあることに気付きました。
この重要任務が任されているのは山の一番近くに居るからです。つまり、狼の一番近くに居るのは自分です。
そうです。村人たちに警報を発した後、自分の身を守る必要があります。
狼少年はスーザンに捉われていたことを反省し、またやる気を取り戻して眠りにつきました。
次の日、狼少年が羊を誘導していると、バタバタとした音が聴こえ始めました。その音は急激に大きくなっていきます。
狼です。大群で走ってくるのが見えます。危険です。
「狼が来たぞ~!!」
………。遠くに居る村人たちが反応しません。スーザンがこちらを見て冷ややかに笑っています。
狼少年は使命感から更に叫びます。
「狼が来たぞ~!!」
その時、トーマスさんは厠で用を足していました。
「あんれ~、厠でキバってるときにこれ、…んー、まぁあれだべ、どうせまた変わったこと考えて騒いでんだべ。」
「悪い子じゃねんだども変わったこと考えんだなこれ。」
「この前も臭い消す仕組み考えたって村中の厠とんでもねーことになったっけ。」
「反省してたから、後でちょっくら言い聞かせばいいべ。」
「狼が来たぞ~!!」
………。狼少年がいくら叫んでも村人たちは反応しません。
「アカンわ、アイツラ…。」
狼少年は諦め、午前中準備した芽キャベツ満載の樽へポーン!と飛び込みます。
すぐにバタバタ音が樽の横を通り過ぎて行きました。
しばらくの間、狼少年が隠れる樽付近は静まり返っていました。
狼少年は耳を澄まします。
………。
狼少年は遠くに聴こえる雑音に気付きました。何の音?とそちらに気を向けた瞬間に分かりました。遥か遠くで鳴り響く村人たちの悲鳴です。
「キャー!!!」「イヤー!!」「助けてー!」
狼少年は樽の中で真っ青になっていました。狼少年に思い浮かぶのは地獄絵図だけでした。
狼少年の頭の中はドス赤い地獄でした。もう村人たちの悲鳴も耳には入らないほど呆然としています。
狼が村人を食い千切る様子を想像し頭から離れません。
そんな村人の肉なんておいしいのでしょうか。狼少年は生肉を見たことが無いので想像が付きませんでした。
狼少年は今朝食べたソーセージを想像します。「ソーセージは生肉を腸とかに詰め込むんだよな…。」
狼少年は今日の朝食でパンとソーセージを一緒に頬張っていました。「パンと肉ってメチャ合うねん…。」
狼少年はパンの形状を思い出しました。「ん?こーすりゃ旨いんじゃねーの?」
そういえばと思い出します。キャサリンのお母さんが作ってくれた料理です。“ハンバーグ”という名前らしいです。
「これだって肉だよな?でもこれパンに挟んでもこうなってしまうよな。」
「さすがに不安定すぎるわ。こーするしかないな。」
一応収まりますが、せっかくの丸々一枚が分断されてしまいます。「ボリューム感落ちるのは回避できないのな…。」
「うーん…。これは諦めるしかな…い………あっあ!こーすりゃいいやん!!」
「こーれ完璧だろ?パンと同時に肉、安定性、ボリューム感、全部満足してるやん!ん?おまけにパンに切れ目入れる手間も省けるやん!こーれは完璧!!」
「レタス、トマト、ケチャップ追加すりゃモッサリ感も解決やん!!」
「形変えるだけで条件全部満たせるってあるんやなぁ…これはいいわ。絶対成功する!」
………と、自分の世界に入り込んで小一時間。ふと我に返ります。
「忘れてた!!!」
そうです。村人たちが大変です。
狼少年は樽から這い出てトーマスさんの山小屋へ向かいました。途中、襲われた羊が目に入りましたが、それどころではありません。
トーマスさんの山小屋に着きました。静まり返る中へ入ってみると血生臭い臭いが充満しています。
トーマスさんが見つかりませんが、この臭いは厠の方からです。行ってみると厠へ通じる廊下が鮮血だらけです。
狼少年は怖くて見ることができず、振り返って村へ向かいました。
村では雑踏一つ聴こえず静まり返っています。
村の中央を通る道に着きました。想像した地獄絵図そのものでした。至る所に鮮血が飛び散り、倒れた誰かの足も見えます。
狼少年は呆然と見回しながら歩きました。
派手なだけでセンスのかけらもない日傘も見つかりました。横に倒れているのはスーザンでしょうか。
狼少年はただただ立ち尽くしていました。
どれくらい経ったでしょうか。狼少年が不意に見上げると真っ赤な夕日が見えました。
鮮血がだんだんドス黒く変色してきました。周囲がオレンジ色に染まり赤色が隠されてくると、狼少年の注意が別のことにも向き始めました。
「晩飯…。」
狼少年は宛もなく山から遠ざかる道をトボトボと歩き始めました。
完全に日が落ち、となり村ではそれぞれの家で一家だんらんの時を過ごしていました。
それぞれの家の窓からはオレンジ色の光と家族の笑い声があふれ出ています。
メリーおばさんは隣の家へ訪れ、今日作った得意のロールキャベツをおすそ分けしていました。
メリーおばさんが戻る途中、狼少年を見かけました。こんな時間に見慣れない子供が一人でトボトボと歩いています。
「あらボク、どうしたの?」
狼少年は放心状態で何も耳に届いていませんでした。
メリーおばさんは疲れきった表情の狼少年を見て心配になりました。メリーおばさんはだんなさんを呼びました。
「あなた~ちょっと来て~!」
「何だ何だ何だ?」
声が辺りの家に聞こえたので、みんな出てきました。
「どうしたの?」「どうしたの?」「あらこの子、どうしたの?」
狼少年は騒ぎに気付いて答えました。
「村人たち全員狼に襲われました。」
「え!?ボク以外全員?もう誰も居ないの?」
「はい…。」
となり村の人たちは掛けてあげる言葉が見つからず、ただ唖然として狼少年を見つめていました。
黙って見つめるとなり村の人たちは一人、また一人と狼少年の不審な点に気付き始めました。
確かにこの子供は疲れ果て、頭には何やら野菜らしき物が付着していますが傷一つ負っていません。となり村の人たちはみなこう思いました。
「狼が唯一襲わなかった選ばれた子供…。」
となり村も狼から身を守る必要があります。となり村の人たちは狼少年にあやかるため、村長の家に引き取ることにしました。
こうして狼少年はとなり村の守り神として、ハンバーガー事業を始めることなく、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。
おしまい。
保護者の方へ-童話から得るべき教訓
「いつもこうだから」と何の自然法則にも基づかない、いいかげんな経験則で未来を決め付けると村人のようになるよと教えてあげて下さい。
また、嘘を付く行為は最初に事実を掌握する見張り番の特権。都合が悪いならシステム的に抑える必要があります。
責任を果たさせるための“報酬”が必須で、報酬差し止めなど見張り番の弱みを握るための必要経費が必要不可欠、と世の道理を教えてあげて下さい。
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