先日からゴン太君が一生懸命説明していましたが、今回はポックさん。

数年間スピーカ自作に没頭してきました。マニアから見ればまだまだヒヨッコですが、色々悩みながら調べてきました。
そんな経験を整理するため、原理的・商業的・価値観的な側面から“スピーカを自作する理由”を書き起こしました。もちろん独断と偏見解釈。
1. いい音悪い音は主観的な問題だから自作する
1-1. 作成したのは自作BHスピーカ
先日からゴン太君が説明していたのは『バックロードホーン型スピーカー』の製作風景。スピーカーの箱=エンクロージャを作っておりましした。
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身長が78cmありますが、バックロードホーンとしては多分まだ小型の分類。
音道の数 | 8本 |
音道長 | 230cm |
空気室容量 | 1084ml |
スロート絞り率 | 42% |
広がり率 | 1.2 |
クロスオーバを130Hzにセットしてるため空気室大。
使用したユニットはTangbandのW3-926SDF。1個2340円。左右2ch分購入。磁石は強いが振動板が重いせいで共振先鋭度Qが大きくなっているものを選択。
出来上がったスピーカの特性は、
80~100Hzがかなり盛り上がってしまうが、40Hzまで狙うには仕方なしか。120Hz位のディップは、空気室の容量調整でごまかせ…ないかな。
因みに、室内にできる定在波はスピーカの位置を変えてピ-クが動くかどうかで判断。また、高音部分はユニットの特性が出るだけなので無視。
1-2. 雰囲気すら伝わるか怪しい録音動画
上記BHは映画館のような音質を小音量でも再現するために設計しました。
映画館ではスクリーン裏にセンタースピーカを設置するので、観客に届くのはやたら低音成分の強い、こもった感じに聴こえるセリフ音。
なので、俗に“いい音”と呼ばれるものではなし。でも、本物の映画がアレなので映画鑑賞用に部屋をアレにしたく奮闘しました。
とはいえ、爆音不可な一般家庭では同じことしても限界がありますし、音楽を聴く際に破綻してたら困ります。
そこで、アノ感じになるよう“乾いた低音”を実現し、思いっきり低音を増強。何だ“乾いた低音”て。
こうすると音楽は、
’録音元 Ravel ♪Bolero
録音環境がヘタレなので音が割れてたり。全然伝わらない動画でした。
1-3. 自作マニアは好みの音を作るのが目的
思いっきりスベりましたが話の続き。
“いい音”、“悪い音”は全て主観的な問題。歌のうまい、下手と同じ。
商業的には多数の支持を得るよう目指しますが、“いい”“悪い”とは別問題で、聴いた人がコレイイ!と思うならその人にとっては間違いなく良い音で、別の誰かに決める権限無し。
「自分は好きじゃない」て方が居たとしても、その人も正解であり、すべて主観的な問題。
そんなわけで、多くのオーディオマニアは好みの音、好みの雰囲気を作り出すためにスピーカをわざわざ自作しています。
で、ポックさんが作るのはスピーカのエンクロージャが主。つまり木工が主。製作経験はこちら。
バスレフ型(トリプルパスレフなども含む) | 4種 |
バックロードホーン型 | 12種 |
ポックさんのレベル: 「バックロードホーンの経験はそれなりに積んだけど、まだコンパネや構造用合板(スピーカ用途には向かない)でホーン形状を突き詰めている」レベル。 「能書きを垂れることはできるが、時々理屈に矛盾が見つかり眉をひそめて考え込む」レベル。 |
この位の経験から解釈した“スピーカを自作する理由”を以下に連ねます。
2. メーカー既製品との事情違いから自作する
音質に対して良いことと商売に対して良いことは別物。何かしら相反するポイントが存在するので、「商売上の都合」による影響と自作の有利な点を以下に独断と偏見。
2-1. スピーカの苦手分野と対策
スピーカが苦手とするのは低音出力。大きな理由は、
“音波”とは酸素分子数十コ、数百コ程度の距離で微小振動する波(らしい)。つまり、音としての空気の動きは人間の目に見えないもの。
でも、スピーカユニットを凝視すると思いっきり振動が見えます。特にドラム音など低音のタイミングにドスンッ。
これは目視できる程の大振幅なので“音”でなく単に空気動かしてるだけ。振幅大ほど空振り大。
つまり、最も空振りが大きいのは大振幅で振動する低音。十分な低音出力のためには、この空振りをいかに効率よく“音”に変換するかが対策になります。
その対策のため、ほぼすべて(?)の方式で有利に働くのが、
大口径ユニット採用や、ユニットへの負荷を減らしたりなど色んな策が打ち易いので。
2-2. デカいモノは売れない
『図体を
』すれば対策はしやすいですが、メーカにとってこれほど嫌なことはなし。商品が大きくなれば輸送費・倉庫の費用・材料費すべてに掛かってくるので。当然販売価格も高く→台数売れない→悪循環。
購入する側にも大問題「部屋に置けない。」
「持ち帰りできる商品は配送の10倍売れる…。わしぃ…VHSにしますわぁ…。」
間違えて重量の例を出してしまいましたが同じ話。
メーカは利ざやの大きな高額商品を求めますが、それはしっかり顧客が付くプロ向け製品の話。この例は大衆向けの民生品の話なので明らかなミスマッチ。
一方、自作であれば『図体の 』を緩和することが可能です。例えば、部屋に28cmの隙間があるなら27cmで設計すれば、可能な限り“デカさ”を追求可能なので。
これをメーカがやろうすると全家庭の条件に合うよう1cm単位のラインナップが必要になるので、まぁ無理。
つまり、自作ならDIYの決まり文句“ジャストサイズ”で最大メリットを享受することができます。
2-3. カッコ悪いと売れない
スピーカはインテリアの側面が非常に強い製品。対して音質自体は主観的な好み。となると大事なのはやはり見た目。
以下を比べると、やはり選んでしまうのはたくさん付いてるマルチWay。「なんか良さそう」←これは当然のこと。
元々、フルレンジから始まり、音域の狭さをカバーするため各音域専用ユニットを追加し生み出されたのがマルチWay。
が、「フルレンジがいい」と判断する人はたくさん居て、音域のつながりは当然フルレンジが圧勝。また、軽快でハッキリした音質です。
フルレンジ一発を主力として発売する音響メーカもあり、それがBOSE。BGM用としてカラオケやお店の天井角に設置されてるのをよく見かけます。あの雰囲気がフルレンジの音。
BOSEの製品の印象は…、
1コだけのカッコ悪さを隠しているのでしょうか。
まぁ、これは単なる邪推ですが、フルレンジ一発の問題はやはり見た目。
特にポックさんの作るバックロードホーンは
図体に小さなユニットが1コだけの、この上なくカッコ悪いもの。フルレンジの利点をそのまま、苦手な高域は小口径で(口径小さいほど高域キレイ)、苦手な低域はデッカいエンクロージャでカバーするための選択です。
これは見た目を捨て、デカさを許せる自作ならではのこと。
3. 採算合わないから仕方なく自作する
3-1. 低音が出ないもう一つの理由
低音が出ない一要因は上述の“空振り現象”。更に別の要因もあり、それが“低音の回り込み”。
スピーカユニットは前面に対し音を放つのと同時に背面に対しても“逆位相”の音波を放ちます。
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ホイヘンスの原理から、波長の長い低音成分ほどユニット前後への回り込みが激しいので背面からの逆位相を重ね合わせることに→低音を相殺。
ユニットを裸で鳴らすとシャカシャカシャカッ…と高音しか聴こえないのはこれが理由。
なので、背面からの逆位相を何とかするためスピーカの箱=エンクロージャを準備します。もちろんユニットを安定に固定する役割も兼任しますが。
箱に付けるならついでに形状を工夫し低音増強にも利用しようと、下のようにたくさんの方式が考案されています。
3-2. 多様なエンクロージャの方式
低音を補うため、様々な方式が考え出されています。
平面バッフル、後面解放型 | |
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背面が開放されてるのでコーンに一切の負荷が掛からず、信号のままユニットを駆動できるのが特徴。 | |
密閉型 | |
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以降の方式と異なり、中音域から低音に自然に繋がるのが特徴。ただし、完全に密封されてるので微細な音の再現は苦手。※主な理由が以下。 ・内部圧力を保とうとする力に抵抗してコーンを駆動する必要がある。 ・一般的にこの方式では十分な低音出力のため低能率で振動板が重いユニットを使用するから。 |
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バスレフ型 | |
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最もポピュラーな方式。現在販売されているスピーカシステムの大半。また、自作でも最も作例が多いと予想。
ヘルムホルツ共振を利用し、目的の周波数(低音)を増強。共振させる周波数は内容積とダクトの断面積・長さで決定。 箱に穴+ダクト付けるだけなので非常に作りやすい上に、音質上バランスがよいのが特徴。 内部の部屋を二つにし、ダクトで繋げ二重にしたものをダブルバスレフ、三重にしたものをトリプルバスレフ。 ダブルバスレフの内、二段目の部屋を複数にしたMCAP-CR型など多様な種類が存在。 |
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音響迷路型 | |
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音の伝播に時間が掛かることを利用し、迷路の道のり分だけ背面からの低音を遅らせ(図の※)前面から出たものに重ねて増強する方式。遅らせるための道のり長は、増強したい周波数の半波長分に設定。
ただし、これは諸刃の剣で、増強する周波数がある反面、打ち消し合う周波数も必ず存在させてしまいます。
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共鳴管型 | |
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エンクロージャ内部に定在波を作り、目的の周波数を増強する方式。定在波についてはこちら。(リンク先では“定常波”表記。) 開放的な音が鳴り響くが、凄く大型になるのが特徴。 製品名としてよく耳にするのはBOSEのキャノンウーファー。「BOSE=フルレンジ一発」を印象付ける代表例のような存在。 仕切りの板を斜めにしたTQWTなども存在。 |
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バックロードホーン型 | |
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長い長いラッパを折り畳んで収めたタイプ。コレです。
低音のみが増強対象なので滑らかに広がるラッパ状は必須でなく、図のように階段状に広げた作例がほとんど。 即立ち上がり、即消える迫力の低音ですが、特性を綺麗にすることが難しく癖が出やすいのが特徴。
※音響迷路型、共鳴管型、(更にはバスレフも)の形状を併せ持つため正確に特性を計算しにくい。
重低音と呼ばれる音域まで狙う場合にはそれだけ長いラッパが必要になるのでかなり大型に。 |
代表的なものだけでもこれだけ。が、現在商品として販売されてるものといえば…、バスレフ、密閉型…、簡易的なバックロードホーン位。
それぞれに良さ、欠点があり、好みを選ぶためにも自作が必要になります。
3-3. 自作で多数派は高能率フルレンジ一発
やはり自作で多いのは高能率ユニットを使用したフルレンジ一発。作りやすいからと予想します。
“高能率”とは、同じ信号で駆動したときにより大きな音量を出力することを指します。
高能率なユニットは音の細部まで再現しやすい特徴があります。
自作した方が動画を挙げる際によく選択するのが女性ボーカル。発声音、呼吸音など細部を強調して聴かせられるからと思います。
伝わりますでしょうか、この感じ。これは強調された音源をわざと選びましたが、高能率のフルレンジ一発はこんな雰囲気に。
パソコン用の小スピーカではフルレンジ一発が主流ですがそれはあくまで簡易的なもの。
そういうのでなく音響メーカから本気モード!で売り出されることがあります。例えばPIONEERの。
が、大抵は凄く高額に設定。これも自作の理由のひとつ。
3-4. ほぼ絶滅?バックロードホーン
ポックさんがブログをゴン太君に丸投げして一生懸命作ってたのはバックロードホーン。
元々は映画館、劇場などの設備としての方式だそうですが、数十年前は一般向けにも販売されていました。
が、現在はほぼ絶滅。見かけるのは、樹脂やくり抜いた板を積層させてホーンを成形したもの位。
音質が悪いから絶滅危惧なのか、作り難いから絶滅危惧なのか。ポックさんもぶっ倒れましたが、こんなの大量生産できません。やってられません。
数年前にこんな車が発売されました。ホンダ自動車とFostexのコラボレーションで販売された『N-BOXスラッシュ』です。
これをどう捉えるかですが、「販売にまで踏み切った」=「バックロードホーンには根強いファンが居る」←これだけは言えるかなと。
ポックさんが勝手に崇拝している丹波漆器の名工、田中さんの作品。これは共鳴管型。
絶滅してるてことは自作しか選択肢なし。これも自作の理由。
余談ですが、歌い手の発声方法が捉えやすいてことでプロの歌手は好んでバックロードホーンを使うそう。
3-5. 音響メーカが作る最高峰
これは関係ありませんが、プロである音響メーカが作る最高峰もついでに。最高峰なので図体はデッカい。
設置条件も値段も全く違うシロモノですが。
ホールいっぱいに振動が響き渡るて感じ。高級感たっぷりでフルレンジの音とはまた異なります。
独断と偏見で勝手に解釈する“大変な思いをしてスピーカをわざわざ自作する理由”でした。
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