オーバークロックができる理由と半導体メーカの常識

ポク太郎です。

ハード改造のページが人気です。目指すは人気ブログ!てことでソッチ分野のうんちく。

一般の方には盲点になり誤解を生じてるようにも感じる“半導体業界の常識”を書いた読み物です。

PC好き、ジャンク改造好きな方向け。


こちらを例に半導体業界の常識を探る

こちらでマイニング用途向けの中古グラフィックカードの改造を行っております。

仮想通貨のマイニング業者が中古市場へ大量放出した専用グラボを、一般人が“通常のグラボ”へ改造する話。そのグラボが次世代のRX580にも改造できる!との噂も。

上記を題材に“半導体業界の常識”を紹介します。

ご注意

メーカが具体的に行ってることは通常、企業秘密。本記事の内容は開発者・営業・代理店の人物が噂話として聞く常識的な話。下記登場人物を例に半導体業界の常識を語る目的の読み物です。

登場人物は、

A アセンブリメーカー…他者から部品購入し組み立てる
B GPU製造メーカー
C 他の電気部品製造メーカー

リンク先の例で言えば、Aがグラボを販売するSapphireBがGPUを供給するAMDCHynixなどのメモリメーカーや他の多数の部品メーカー。

ASapphireから見ればBCも同じ“電気部品供給メーカー”ですが、Bはメイン機能で、代替の無いGPUの供給メーカーなのでここではBCを分けて表記します。

高速と低速メモリの違い~半導体部品供給の事情

大量生産方式で商売してんだ

半導体メーカーとはインテルAMD東芝ルネサスなど。

決算を見ると分かりますが、何千億円と売り上げ経常利益も莫大。商売はチャネル長数10nmの微細加工製品の製造販売。nmとは10憶分の1メートル←ナノテクノロジーの最先端。

超先端技術で製造した高付加価値のICを1コ~数千円で大量に売りさばき、巨額の利益が出せる理由は“大量生産方式”。

同じモノ”を何も考えずに大量に生み出すことにより商売を行っています。

製品の種類は選別で

同じモノ”を大量に生み出すコツは集中すること。つまり、製品のラインナップを一つに絞れば一番大量。

工場の常識をご存じならわかるかと。出来上がった製品には出来のいい奴悪い奴。例を挙げると、

〇200MHzで正常に動くメモリICと150MHzまでしか動かないメモリIC。
〇1%以内の誤差しかない抵抗と3%の誤差が生じてる抵抗。
DDR4の規格
規格 動作可能周波数
[MHz]
DDR4-1600 100
DDR4-1866 116
DDR4-2133 133
DDR4-2400 150
DDR4-2666 166
DDR4-2933 183
DDR4-3200 200

DDR4用のメモリICを大量に作ります。3割が215MHzで、5割が180MHzで、残り2割が110MHzで正常動作できたとします。

3割…⑦向けの型名を名付け“DDR4-400-C200”に。
5割…⑤向けの型名を名付け“DDR4-400-C166”に。
2割…①向けの型名を名付け“DDR4-400-C100”に。

出来のいい奴は高価格で販売可能なので“上級品”の型番に、出来の悪い奴は“低級品”の型番に。このように種類は一つだけど出来の良い悪いでラインナップを設定しています。

業界では“選別方式”と呼ばれます。

その他、製造現場では供給の問題も。“産業のコメ”なので。

特にこれらを使用する電化製品の場合、クリスマスセールなどに在庫を確保するためアセンブリメーカーAは生産ラインをフル稼働。「材料がない」で諦める訳に行かず。

一般的に出来のいいモノを上位互換として使えるよう仕様・規格を決定するので、⑦用のメモリICはすべてに転用可、⑤用のメモリICは⑤以下のすべてに転用可。

抵抗も、5%の誤差を許容する設計品に1%の誤差品を使用しても当然無問題なので転用可。

そこで供給する側BCは“上級品”を“低級品”の型番に変えビジネスパートナーAに出荷。多少価格が下がってもAに製品を作ってもらわないと。ビジネスチャンスは当然同じ時期なので。

つまり、この業界では“設計図・製造過程も同じなのに違う型格”が常識。

LSIの開発費がベラボーなんだ~RX470とRX580は同一品?

主にB:GPU供給メーカーに関わる話。例に出したのはAMDRX470RX580

RX470RX580が同一品かどうかは不明。例として挙げてるだけ。一般的に下記のように凌いでいます。

GPUだけに限りませんが、製品の心臓部となる専用LSIとは、10憶コレベルの途方もない数のトランジスタを並べた大規模LSI。uLSI(ultra Large Scale Integrated)とも言います。

ハードウェア記述言語を使いプログラムで設計するものの、機能上の性能、電気的特性、タイミング特性、製造品質をすべて確保必須→規模が膨大故に開発費莫大(主に人件費ですが)

何度も何度も繰り返し開発できません。

となると思い付くのは、設定を変えるだけで“上級品”として動き“低級品”設定時はメモリクロックを多少抑えるなどを施したラインナップ拡充策。

フラッグシップ1種だけでなくミドルレンジ・ローレンジがラインナップとして存在した方がやはり販売経路を増やせます。

例えば、あるピンをGNDに繋ぐと“低級品”、1.8Vに繋ぐと“上級品”。“低級品”の説明書には「このピンはGNDに繋げてね」、“上級品”の説明書には「このピンは1.8Vに繋げてね」。

こうすることで、Bは最高スペックの開発のみに専念できます。

この業界では低級品上級品の原価=“材料費”が同じで、かつ、設計の手間が膨大なため、このような現象が発生することに。

アセンブリメーカが勝手なことできない理由

上記で書いた“選別”の話は部品供給メーカーBCの話。次はアセンブリメーカーAの事情の話。

上の話から、じゃあアセンブリメーカーAは安い低級品を買って高い上級品として搭載して売れば?と疑問に思うかと。

答えは「できません」。理由は保証対象外になるから。

Aかて月に何十万台と製造する大量生産方式で商売してるのは同じ。BCから納入された部品を組み立てて製品として出荷する必要があります。

もし不良品が納入された場合は部品供給メーカーBCが保証する契約。

が、そこでアセンブリメーカーAが説明書に則さない使い方してると、不良品なのに保証も無くなり全部Aの損害。真っ当な企業なら恐ろしくて絶対にしないこと。

不良品と気付くタイミングはプリント基板製造後→そのプリント基板に搭載した他の部品も一緒に全部ゴミ化してしまいます。既に半田付け後なので。それ外して再利用なんて目論んだらもっと損するし。

アセンブリメーカーAは説明書を見れば上級品低級品の分け方なんぞおおよそ予想が付くし、Bが売込みの際に自らそれを説明しててもおかしくない事案。

それでも、保証が無くなるのが理由で好き勝手に上級品に化けさせられません。そんなことするのはBCからの保証なんてどの道期待できない売切りのジャンク系メーカーだけ。

たまにAから“オーバークロック版!”と銘打って発売されることがありますが、なぜ保証外のものを販売できるのかは不明。

確保した在庫数と販売数が乖離しどの道A自身が全責任を被る必要がある場合とか…、逆にB側が大量の不良在庫を抱えてしまいオーバークロック情報と格安販売の提案をAに申し出するのか…。

“一年前は古代”な日進月歩の世界なので、無駄な在庫は履いてしまわないと完全な不良債権。なのでそういった変則的な販売形態が存在するのかも。

この辺の変則的な販売契約は商売の話なので関係者外からは見えない部分です。(私も関わった経験無し。)

オーバークロック、上位改造が可能な理由と条件

オーバークロックができる理由・条件

オーバークロックができる理由の一つは上で書いた上級品がたまたま使われてる場合。

プロセス技術が進歩しその部品のほぼ全数が上級品になってしまってるケースも。当然BCは“歩留まり改善”のため製造品質をガンガン上げ上級品の生成率も上がって来るので。

低級品を想定して設計された製品に上級品が搭載されてることになるのでオーバークロック可能てことに。

オーバークロックができるもう一つの理由は冗長設計による余裕分。

低級品を想定した設計に低級品が搭載されてる設計通りの製品でも、通常はかなり余裕を見た設計を行います。

理由は“確実を求めるから”と“半導体製品は一定確率で必ず誤動作するから”。

“一定確率で必ず誤動作する”ので、CPUなどの説明書には「生命維持装置、飛行機、ロケットなど人命に関わる機械には絶対使うな。責任取らんぞ。」とデカデカと明記してあります。恐らくそーいうのは同一製品を販売するにしても、BCが、専用の出荷前テスト環境、専用の保険契約、その他も専用に準備し、別型番を名付けた個別商談として対応するんだと思います。経験無しなので予想ですが。

上記の誤動作の確率をあり得ないような低確率まで落とし込み使用してるのが半導体製品。なので、その冗長部分を食い潰した結果オーバークロックできたように見えることに。

結局、一般消費者は上記どちらのケースでのオーバークロック成功なのか判別が付かない筈なので、やはり“オーバークロックは行わない”が正解。

とはいえ、得した気分を味わいたいのが人の性。なので好きにしたらいいとは思いますがすべて自己責任。怖いのは火事です。

RX470→RX580に改造可能か!?

ここではRX470RX580改造を例に電気回路のお話。

先のリンク先ではSapphireRX470RX580のBIOSがエラーも出ずに書けました。てことは恐らく同一品←単なる予想ですが。じゃあRX580に化けるのか?てのが気になりますが、結果は、

化けませんでした。

先のリンク先での結果は「真冬に高負荷でそこそこ動くが1度砂嵐表示&復帰不可能に陥りBIOS再書き換えで修復した」。夏なら無理っぽいと予測せざるを得ない結果でした。

同一のはずなのに化けなかった理由を以下に予想。

Sapphireのグラボ上には、
RX470
GDDRメモリcpu-zによるとうちのはHynix表示。
・その他回路
が実装されています。

GPUは大量のグラフィックデータをゴリゴリ計算するハードウェア。GDDRメモリから計算の元をゴリゴリ読み取り、計算結果をゴリゴリ書き込めないと動けません。

となると必要なのは、RX580でのメモリクロックで正常動作可能なGDDRメモリもちろん相応なインピーダンスコントロール済のプリント基板も。これほどの高速クロックで動かす品なので。

すべての条件を満足して初めて機能が実現できるので他に要因がないとは言い切れずですが、一番キツイのは普通に考えてメモリアクセス。

それなりに動いてるので「搭載されてたGDDRメモリRX580のアクセススピードに追いつかず読み書きが不安定になった」が原因と予想します。

だから、もし運良く上で書いた上級品となるGDDRメモリが実装されてる場合は…、RX580に化ける可能性は高いと考えます。

こーいった話を書いたブログはあまり見かけず、根本的に誤解したオーバークロック情報を見かけたりするので、うんちくとして書いてみました。

技術者だけでなく営業さんやソッチ関係の商材を扱う代理店の方も知ってる内容。ジャンク釣りが好きな方は周囲のソッチ関係の方に聞いてみると色んな裏話聞けるかも。

ゲーム機販売が主となってしまった巨大企業がクリスマス商戦に間に合わせるためにドブに捨てた開発費の額とか。衝撃的な額だったので結構有名。ドブに捨てた理由はここに書いた事情が絡みます。

そこまで派手ではないけど、数千万円程度ならドブに捨てた経験が俺にもあったりして。関係者の方、その節はごめんなさいでした。

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